鬼 滅 の 刃 ss 炭 カナ。 『鬼滅の刃』炭治郎がカナヲの心に起こした“変化” 童磨戦後の涙が伝える、人としての成長|Real Sound|リアルサウンド ブック

【鬼滅の刃】炭カナっぽい話を原作・公式から紹介!2人の関係は?

鬼 滅 の 刃 ss 炭 カナ

ほんとはね あれは天井の木目だろうか。 歪んで見える。 ぽろりとこぼれ落ちた涙が耳の方に伝わる。 俺は泣いているのか。 誰のものともわからない夢の中にいたような気がする。 一体、ここは現実なのか。 俺の手足はついているか。 動かない。 首が回らない。 「炭治郎……!」 何かが割れる音と名前を呼ぶ声、そして誰かが駆け寄ってくる。 カナヲ? どうしてそんな顔をしているんだ。 泣きそうじゃないか。 「気が気じゃなかったのよ」 脚を開き身体を伸ばす俺の背を、カナヲが後ろから押してくれる。 「本当に、あなたが眠っていた二ヶ月間は」 ぽつりと呟くその表情は見えなかった。 俺を取り囲んでいた管はすべて外れて、やっと自由に歩けるようになった。 寝たきりだった体はあちこち固まって筋力も落ちている。 しばらくはこの蝶屋敷で少しずつ、元に戻していかなければならないだろう。 「ずっと看病してくれてたの?」 「……うん」 「ありがとう。 最初に目が覚めた時、カナヲの声がしたんだ」 あの時、目を覚ました俺を見て血相を変え、走り寄ってきたのは彼女だった。 「それで俺、ここが現実だってわかったんだ」 「……目が覚めて、本当に良かった」 振り返ると、控えめな花が咲くみたいにカナヲが笑っていた。 訓練場から寝床に戻ろうとすると、掴まっていいよと彼女は手を差し出した。 俺はその手を取った。 明日は走り込みをしようと思っていたくらいだから、本当は助けなんて必要なかった。 でもゆっくりと、カナヲの手を取った。 俺はただ、手を握った。 陽射しを浴びながら体を動かすのは久しぶりだったので、とても気持ち良かった。 まだ本調子ではないけれど、体力は少しずつ確実に戻ってきている。 しのぶさんやアオイさんには無理をしないようにと何度も言われたので、心配をかけないよう、限界まで動くことはやめておく。 今日はここまでにしよう。 流れる汗を拭き、屋敷の中に戻ろうとすると、いつのまにかカナヲが立っていた。 「調子はどう?」 「あっ、カナヲ。 だいぶ良いよ。 今日は少し走ったんだ。 まだすぐバテちゃうけどね」 彼女は俺の言葉にゆっくり頷いた。 「……お茶、飲む?」 「わあ、ありがとう」 縁側でカナヲが用意してくれた麦茶を飲む。 「はぁ、冷たくておいしい」 「良かった」 庭には陽射しが降り注いでいた。 「私、明日ここを発つの」 静かにカナヲが告げた。 「えっ。 ……そうなんだ。 任務?」 「うん。 少し遠くに行かなきゃいけなくて、それで早めの出立で」 俺のようにひどい怪我でもしない限り、鬼殺隊の隊士である以上はこうしていつ何時も任務を言い渡される可能性がある。 そんなことわかってはいるけど、カナヲがいなくなってしまうことが、とても残念だった。 「明日……早いの?」 「うん。 早朝のうちに」 「そっか」 道中気を付けてとか、言うべきことはたくさんあったと思うけれど、何故かそれが言えない。 しばらく二人で黙って庭を眺めていたが、カナヲが口を開いた。 「炭治郎」 「ん?」 「部屋に戻る?」 「ん……うん。 そうだね。 そうしようかな。 お茶、ありがとう」 本当はもっと二人でいたかった。 はっきりとそう思っている自分がいる。 立ち上がった俺に、向かい合って立つカナヲが言う。 「……掴まっていいよ」 目の前には昨日と同じように手が差し出されている。 その顔は赤く、目は伏せられていた。 「カナヲ……」 俺は手を取った。 「さっき俺が走ってるところ、見てたよね?」 取った手を握る。 「……」 カナヲは恥ずかしそうに目を伏せたまま何も言わない。 「もう手助けはなくても大丈夫なんだ」 手を握ったままカナヲに近づく。 「……じゃあなんで炭治郎は」 至近距離の彼女は俺を見上げた。 「昨日も今日も、私の手を取ったの?」 目元がうっすら赤くなり少し涙がたまっている。 可愛いなあ。 もっと一緒にいられたらいいのに。 「きっと、カナヲと同じだよ」 そのまま彼女を抱き締める。 花の蜜の香りがした。 [newpage] 2. イチャイチャしないと出られない部屋 その奇妙な部屋に閉じ込められてどのくらい経ったのか。 任務帰り、突然振りだした叩きつけるような雨。 あっという間に全身ずぶ濡れになってしまった。 俺は雨宿りのため、道すがらにあった藤の家を尋ねる事にした。 家人は親切だった。 濡れた隊服が乾くまでの間にと、着替えの浴衣と温かいお茶を与えてくれた。 「この雨では山道も危険です。 お体も冷えているでしょう。 どうぞゆっくり休んでください」 ありがたい言葉に甘え、通された部屋に入ると、何故かカナヲがいた。 「た、炭治郎……?」 「あれ、カナヲ?」 同じ浴衣を着ている。 もしかしてカナヲも俺と同様に任務帰りの雨で帰れなくなってしまったのだろうか。 そう訊こうとした瞬間、部屋の気配が変わったのに気付いた。 振り返ると、入ってきたはずの障子戸が消えている。 「え……?!」 慌てて部屋の中の障子窓を開こうとするが、飾りのようにびくともしない。 鬼の仕業だろうか。 この家自体が鬼の罠だったのだろうか。 油断した。 刀も禰豆子の眠る箱も部屋の外だ。 緊張が走る。 「炭治郎、これ……」 その時、カナヲが戸惑いの声をあげた。 困惑した表情を俺に向けながら、床の間に飾ってある掛軸を指差している。 「……なんだ、これ?」 掛軸には、達筆な文字で、 【イチャイチャしないと出られない部屋】 と書かれていた。 カナヲと部屋を一通り調べてみたが、どうやら鬼の気配はなさそうだ。 俺たちに何か危害を加えようという悪意も感じられない。 だが出入口は完全に消失しているし、どうやったって窓も開かない。 全く意味がわからなかった。 「カナヲ……何だと思う、ここ?」 「……さあ……私もわからない……」 索敵を終え、しかし何の手がかりもなく、二人で部屋の中央に向かい合って座る。 頭を捻っても突破口になる考えは思い浮かばない。 「……この部屋には何もない。 あの掛軸くらいしかない」 カナヲが静かに言い、床の間を指差した。 釣られて掛軸を見る。 確かにあの文言は気になる。 「………………」 書かれている言葉を何度も読んでいるうちに、ある事に思い至る。 イチャイチャって、もしかして、女の子と、くっついたりする事か? 以前、善逸が、女の子とイチャイチャしたいよー!と叫んでいなかったか? そのイチャイチャか? そういう事なのではないか? だとするとこの部屋は? 「…………」 「……炭治郎、どうしたの?」 「わああ!!ごめん!」 カナヲはそっと声を掛けてくれたのに、邪な事を考えていたせいで思わず大声を上げてしまった。 俺の考えが正しければ、これからその邪な事をカナヲにしなければならないのかもしれない。 そんな事を知らないカナヲは慌てる俺を心配そうに見ている。 違うんだそんな目で見ないでくれ。 「あっ……い、いや、何だろう本当?どうしたらいいんだろうね?」 目を合わせる事ができず、本当は思い至る考えがあるのにも関わらず、明後日の方を見ながら誤魔化してしまった。 それからさらに時間が経った。 部屋の様子は相変わらずだ。 俺たちはどうすることもできず、ただ座って不毛な時を過ごしていた。 やはり時間が解決してくれるものではないらしい。 と言うことはやはり……。 時間が経てば経つほど、あの考えが確信に近付いていく。 「どうしよう。 どれくらい経ったかな。 助けを呼ぼうにも場所を知らせる事もできないね……」 気弱になっているのか、両膝を抱えたカナヲがぽつりと呟いた。 伏せられた睫毛は顔に影が出来るほど長かった。 俺は段々申し訳なくなってきていた。 俺だけが部屋を出られる手段に思い至っているこの状況に。 カナヲは不安に違いない。 やっぱり、カナヲに打ち明けよう。 二人で相談すれば何とかなるかもしれない。 何も解決策がないよりは、こんな内容の話でも、現状においての希望にもなるかもしれない。 「……あのさ、カナヲ」 カナヲが顔を上げこちらを見た。 「俺、少し思い付いた事があって。 あの掛軸なんだけど」 カナヲの目線が俺の指先と同じ動きで掛軸を向いた。 「イチャイチャしないと出られない部屋って、書いてあるだろ」 カナヲは相変わらず不思議そうに掛軸を見ている。 俺は意を決して続きを話そうとした。 「……その……俺たちが、」 「!」 カナヲはみなまで言わないうちに理解したようだった。 弾かれたように俺を見た後、赤面し俯いてしまった。 少しの間、気まずい沈黙が流れた。 カナヲは俯いたまま何も言わない。 無理もない。 突然部屋に閉じ込められた上、嫁入り前の女の子が、男と如何わしい事をしろなどと。 「カ、カナヲ。 ごめん。 もしかして俺の勘違いかもしれないし、こんなの嫌だよな。 やっぱり他の方法を探そう」 果たして他の方法などあるのだろうか。 ないから今こうなっているわけだが、とにかく彼女に無理をさせるわけにはいかない。 俺の言葉を聞いたカナヲはゆっくり顔を上げた。 意外にも覚悟を決めたような真剣な表情をしている。 「……わかった」 「え?」 「だって、それしか出る方法はないんだもの。 やってみよう」 カナヲはこんなにもはっきりと自分の意見を言うようになったのか。 以前との変化に驚くが、やはり申し訳ない感情が先立つ。 「でも……」 「それに、その……」 先ほどまでとは違い、歯切れ悪く言葉を切った後、消え入りそうな声でカナヲは言った。 「……嫌じゃないから……」 頬を染めるカナヲははっきり言ってものすごく可愛かった。 俺は迷った。 すごく迷った。 いくらここから出るためとは言え、果たして本当に彼女に触れてもいいのだろうか。 でもカナヲは覚悟を決めてくれたんだ。 恥ずかしかっただろうに、ちゃんと意思表示してくれたんだ。 俺もそれに応えたいと思った。 「……うん。 わかった。 カナヲ、一緒に頑張ろう」 俺の言葉にカナヲはしっかりと頷いた。 「…………じゃ、じゃあ」 恐る恐る彼女の手を取り握ってみた。 ひんやりとしてすべすべで柔らかかった。 俺と何もかもが違うその感触に驚く。 力を入れすぎないように気を付けた。 しばらくそうしていたが何も起きない。 これじゃ駄目なのか。 カナヲも部屋を見回して同じ事を思ったようだ。 少し迷ったが、今度は抱き締めてみることにした。 さすがに了解を得た方がいいだろう。 「カナヲ」 「なに?」 「これじゃ駄目みたいだから、抱き締めてみていいだろうか」 「う、うん」 カナヲがまた頬を染めて頷いた。 両腕を彼女の背中に回してそっと抱き締める。 柔らかい。 女の子ってこんなに柔らかくていい匂いがするのか。 頬に滑らかな黒髪が触れる。 花の蜜のような香りが甘く脳を突き抜け、一瞬頭が真っ白になる。 落ち着け。 これはこの部屋を出るためにしている事なんだから変な事を考えてはいけない。 何も考えるな何も考えるな。 自分の手が汗ばんでいるのを感じながらしばらくそうしていた。 しかし何も起こらない。 やはり駄目なのか。 じゃあどうしたらいいんだ。 もうわからないぞ。 そう思った時、カナヲがおずおずと俺の背に腕を回してきた。 「か、カナヲ」 「……私も頑張らないと……」 小さな声で言う。 見下ろす耳が真っ赤になっている。 身体が密着して、カナヲの柔らかさをよりはっきりと感じる。 ただそこに立っているだけなのに、心臓が爆発しそうだ。 ああどうしよう。 絶対カナヲにも聞こえている。 「炭治郎……」 「えっ?!なに?」 「すごい音がする……」 案の定だった。 「ご、ごめん。 うるさいよね」 訳のわからない謝罪を口にすると、カナヲは少し顔を上げ恥ずかしそうに微笑み、言った。 「ううん。 私もだから……」 なんて可愛らしいんだろう。 そう思った次の瞬間、俺は彼女を強く抱き締めていた。 鼻先がその首もとに埋まって、甘い香りでいっぱいになる。 この部屋を出るためにやっている事なんだぞ!という理性の声が遠のいていった。 カナヲは一瞬息が詰まったような声を出したが、応えるように、俺の背に回している腕に力を込めてくれた。 もう愛しくてたまらなかった。 甘い香りがもっと欲しい。 首筋を舐めてみたくなって、舌を這わせそうになり慌てて顔を離した。 お互い抱き合ったままで、至近距離のカナヲと向かい合う。 俺を見上げる瞳は潤んできらきらしていた。 見たこともないその表情に、目眩を感じる。 体の底から沸き上がる衝動のまま、許可も取らず、その赤い唇に口づけた。 今までで触れた何よりも柔らかかった。 ただ触れるだけじゃ満足できなくて、何度も何度も角度を変えてみた。 時々カナヲの方からも唇を吸われ、さらに何も考えられなくなった。 もはや何をしているのかもわからないけど、こんな事をしていて何故ひとつになってしまわないのか不思議だった。 そう、何故なんだろう。 こんなに近くで、こんなに強く抱き締めているのに、全然足りない。 もっと近づきたい。 どうすればいい。 俺はカナヲが好きだ。 口づけの合間を縫うようにして彼女が何か言っている。 「……治郎、炭治郎!」 その声にはっと我に帰る。 いつの間にかカナヲを壁際まで追い詰めてしまっている事に気付く。 壁と俺との間で、カナヲは上気した顔で荒い息をついていた。 「わっ、ご、ごめん!俺……!」 慌てて離れる。 「あれ、見て」 ようやく息の整ったカナヲが俺の後ろを指差す。 その方向を見ると、いつの間にか部屋に入ってきた時と同じ障子戸が元の位置にあった。 「出られる……」 カナヲの呟きで、ようやく、自分達が本来何のためにこんなことをしていたのかを思い出す。 そして恥ずかしくてたまらなくなった。 ここまでする必要があったのだろうか。 途中から完全に目的を見失っていた。 カナヲの顔をまともに見ることができない。 誰か俺を埋めてほしい……。 不思議な事に、その部屋に入ってから数刻も経っていなかった。 ひどく長い時間に感じられたのに。 そして屋敷の家人も、その部屋の不思議について何か知る様子は全くなく、まだ少し濡れていますがと、必死に乾かしたのであろう隊服を差し出してくれた。 一体あの部屋は何だったのか……。 雨は既に上がっていた。 俺たちは二人で蝶屋敷に向かい歩いた。 沈黙が気まずい。 でも謝ろうと思っていた。 「カナヲ、ごめん」 「……何故謝るの?」 「やってみてわかった。 あれは特別な人とすることだ。 それを俺がしてしまって……その……ごめん」 「……」 カナヲは黙ってしまった。 次の言葉を探していると、やがて声が返ってくる。 「それで、なんで謝るの?」 「えっと……だから……」 「……炭治郎にとって私は特別な人じゃなかった?」 「違う!俺はカナヲとしかあんな事しない!」 反射的に反論してしまい、言った後で顔が熱くなる。 カナヲはいつも通りの表情だったが、一呼吸おいて、俺と同様にみるみる顔を赤くした。 「……私もそうだって、言っているんだけど……」 彼女なりに、懸命に、自分の気持ちを伝えてくれていたのだ。 そう思ったら、自分があの部屋でカナヲと抱き合っていた時、何を思っていたのかを伝えたくてたまらなくなった。 だけど言葉だけでは到底伝えられそうにないから、代わりに手を握った。 柔らかい手はそっと握り返してくれる。 好きだ、と言うため、俺は息を吸い込んだ。 [newpage] 3. 酒の力って怖いな 私は冷え性で、季節問わず手足が冷たい。 でも今は爪先が、指先が、唇が、脈打って熱い。 頭は床に着いているのに、ふわふわ波に揺られているみたい。 あれ?どうしてこうなったんだっけ。 床には空き缶が転がってる。 何個も転がってる。 フローリングの床に背骨が当たる。 炭治郎の、熱に浮かされた目が私を見下ろしている。 遠いと思ったのに近い。 いや近づいてくる?遠近感がわからない。 私はぽーっと見上げてる。 さっきから私を揺らす波が一段と大きくなって、背中から突き上げられたと思ったら、見下ろす目が近づいて唇どうしが触れた。 これってキス?いま、キスしてる?もしかして私からした? 波に打ち上げられたせいだと思ったけど、本当は炭治郎の唇に触れてみたかったのかな。 キスってなんだろう。 どんな意味があるんだろう。 私はまだ知らない。 これがキス。 唇どうしがくっつくだけの事象だと思っていたのに、テレビや雑誌で見るその絵面は間抜けだとすら思っていたのに、今、どうしようもなく熱くて痺れるのは何でだろう。 他の人もみんなそうなの?それとも、炭治郎だからなの? カナヲの潤んだ目が俺を見上げている。 こんな顔するのか。 困った。 心臓が早鐘を打っている。 俺の部屋に転がった空き缶。 いつも寝ているはずのベッドが今は妙に生々しいのは何故だろう。 顔が近い。 身体が熱い。 上がった呼吸の音はどちらのものかわからない。 カナヲは背中が痛くないだろうか。 華奢で柔らかい身体。 俺がもしいま体重を支える腕の力を抜いて、下のカナヲに覆い被さったとしたら潰れてしまいそうだ。 さっきからそんな事を考えてしまう自分がいる。 この命に懸けても、俺は酔った女の子をどうこうするような下衆な事は絶対にやらない。 やりたくもないし考えるだけで吐き気がする。 それなのに今の状況はどうだ?いくら俺がカナヲを好きだからって、密かにずっと想っていたからって、新歓で距離が近付いて部屋に遊びに来る事になったからって、二人で強くもないのに酒なんか飲んで、どうなるかなんてわかっていたはずだ。 何故部屋に来てくれたのだろう。 駄目だよ。 こんな事していちゃ駄目だ。 これはきっと良くない事だ。 俺はカナヲが好きだけどカナヲはどうかわからない。 なのに何で俺の下から逃げない?このままじゃ駄目だ。 腕の力を抜いてしまいそうだ。 そしてそれを酒のせいにしてしまいそうだ。 心臓の音が。 呼吸が荒い。 カナヲの白い首から少し赤くなった耳たぶが。 カナヲの潤んだ目が近付いてきたと思ったら唇が触れた。 なんだろうこれは。 やわらかい。 味はしないのになんだか甘い。 頭が真っ白になった後、目の奥が赤くなった気がした。 触れた指先を絡めとって握った。 [newpage] 4. 酔ってないもん 私は酔っていない。 だってそんなに飲んでいないもの。 今日はまず最初に桃のお酒を飲みました。 甘くておいしかった。 それから、みかんのお酒。 これはソーダで割ってもらっておいしかった。 あと、梅酒も飲んだかな。 いくつも種類があったの。 あれ、結局何杯飲んだっけ。 まあいいや。 よく覚えていないけど、そんなには飲んでいないはず。 私、お酒弱いもの。 お店を出たら外の空気が冷たくて気持ち良かった。 顔が火照ってる気がする。 夜なのにたくさんの人がざわざわしてる。 どこもかしこも明るくて、気の早いイルミネーションが綺麗。 なんだか急に楽しくなってきた! 「私、まだかえりたくなーい」 隣にいる炭治郎に甘えるように言ってみた。 人生でそんなセリフ初めて言った。 浮かれた夜の勢いで言えた。 うふふ、なんか楽しい。 「でもカナヲ、もう随分酔ってるだろ」 「酔ってなーい」 「えー。 酔ってるよ」 私はもっと楽しい気分になりたいのに、まだ帰りたくないのに、炭治郎はなんだか心配そう。 人混みから逃れるようにして、私をお店の軒下の空いてるところへ連れてってくれた。 「酔ってないよお。 大丈夫」 「いやでも……って、あれ。 もうこんな時間だったのか。 カナヲ終電は?」 「えぇー?」 炭治郎はスマホで私の最寄り駅までの終電の時間を調べてくれた。 「やばい。 もうカナヲの電車ないよ」 「あはは!」 「笑うとこじゃないから……。 どうしようかな」 だからもっと遊ぼうって言ってるのに。 電車なんてどうでもいいよ。 「炭治郎の家行きたい」 思いついたことをそのまま言ってみた。 「えっ」 「行きたい!そこならまだ帰れるでしょ」 「確かにまだ電車はあるけど……」 「じゃあ行こうよ」 「えー、でも……」 炭治郎は困り顔になる。 「行っちゃだめなの」 私も悲しい顔になる。 「いやだめとかじゃなくて、そのなんていうか、夜遅いし……俺が言うのもなんだけど気軽に男性の家に行くのは……」 「なんかだめなの?危ないの?炭治郎んち危ないことあるの?」 「いやないよ。 ないけどさ」 「じゃあいいでしょ……」 本当はね。 こんなこと言える私じゃないの。 今日だって、炭治郎と二人で食事に行けるのが嬉しくて、優しくてかっこよくてドキドキしてどうしたらいいかわからなくて。 だから普段は飲まないお酒を飲んじゃった。 お酒ってすごいのね。 背中をぐいぐい押してくれる。 いつもだったらこんなに顔を見つめられない。 近くに寄れない。 ましてや家に行きたいだなんて口が裂けても言えない。 酔ってないのよ。 酔ってないけど、お酒ってすごいなって話。 「……わかった。 じゃあ、ほんとにうち来る?」 私がぽーっと顔を見てる間に炭治郎は色々考えたみたいで、なぜか申し訳なさそうに家への同行を許可された。 やった! 帰りの電車はすごく混んでて、私は炭治郎がいなければ押し潰されていたかもしれない。 「ここだよ」 炭治郎が部屋の鍵とドアを開けた。 一人暮らしのアパート。 玄関に入るとなんだか優しい柔軟剤みたいな香りがした。 「お邪魔します……」 部屋の中は物が少なくて片付いてる。 炭治郎はキッチンで飲み物の準備か何かをしてる。 その様子を見てたらまた近づきたくなってしまった。 背後に近寄り声をかける。 「ねえねえ」 「ん?」 振り向いた炭治郎に何て言うかまでは考えていなかった。 なので私はまた、止まらないいたずら心の思い付くままに言う。 「炭治郎、何もしない?」 「……それはどういう」 「だからー、私に何も変なことしない?」 面食らってどぎまぎした炭治郎の表情が可愛くて面白くて、思わず顔がにやける。 「ねえー、しない?」 「相当酔ってるね……。 うん、しないから大丈夫だよ」 「ほんとにぃ?」 「本当に。 カナヲ座ってて」 炭治郎は困ったように優しく笑い、私の頭を撫でてくれたと思ったらすぐ離れてしまった。 誠実で優しい炭治郎。 なぜか悲しくなった。 私はもっと触りたいのに。 もっと近づきたいのに。 「……何もしないのやだ」 「えっ?!」 「何もしないなら帰る」 子どもみたいに言って大袈裟な動作で玄関の方を振り返ってみせた。 炭治郎のばーかばーか。 とは言え本当に帰りたいわけじゃない。 「って、嘘だよー」って明るく振り返るんだ。 そう思っていたのに、がっしりと腕を掴まれ引き寄せられた。 「きゃ…」 「……帰られるのは困ります」 後ろから抱き締められてる。 うそ、うそ、どうしよう。 「カナヲこそあんまり変なことしないで」 「あ……え……へ、変なことって……」 「夜中なのに俺の家に来たり、あんまり距離が近いとさ」 「……」 「こういうことになるよ」 「……あ、あの、あのあのわたし」 炭治郎は私を抱き締める腕にぎゅっと力を入れた後、離してくれた。 それはまるで離れがたいって言われてるみたいで、心臓が張り裂けそうだった。 「……ごめん。 変なことしちゃった」 炭治郎は少し照れたように言った。 「これで帰らないでいてくれる?もう夜遅いから、カナヲ一人で外に出したくない」 「……うん」 ああ、酔いが吹き飛んだ。 炭治郎、真面目なんだか何なんだかわからないよ。 お酒の力はもうないけど、ちゃんと好きって言えるかな。 [newpage] 5. 俺と会ってよ 一緒に眠る気は毛頭ないがそれでも耳を覆いたくなるような大鼾だ。 どこからその音が出ているんだろうっていうくらいの鼾を隣でかく半裸の男を見下ろした。 馬鹿面だ。 ベッドから降り散らばった服を集めて着る。 飲みかけのペットボトルやよくわからない紙類が散乱する散らかった部屋から早く出たい。 特に音に配慮した訳でもないが男は相変わらず目を覚まさない。 事が終われば私には興味などないのだろう。 いやそもそも最初から私に関心などない、見ているのは身体だけだ。 身支度して狭い玄関から出る。 古い建物だからギィバタンと大きな音がした。 アパートの階段を降りると竈門が立ってこちらを見ていた。 無視して通り過ぎようとするが声を掛けられる。 「もうやめなよ」 その言葉も無視して歩き出すと並列して付いてくる。 こうなると面倒くさい。 何処かで撒かなければならない。 そうじゃないとこいつは永遠に後をついてくるだろう。 「あの先輩の事好きなの?」 別に好きじゃない。 というか付き合ってもいない。 お互いに関心はない。 私は誘われたから応じただけだ。 その繰り返しであのアパートを出入りしているだけ。 だが竈門に返事はしない。 「そうじゃないよね?」 笑みを貼り付けたまま何も答えなければ大抵の人は引き下がるのに、こいつにはそれが通じない。 そういう人間が一番苦手だから私はなるべくこいつと関わりたくない。 それなのに何が面白いのかいつの頃からかこうして私の行動に口を出すようになった。 「もしかして栗花落はあの先輩に脅されてるのか?だからこんな事を繰り返してるのか?」 竈門が真剣な声で言った。 私は足を止める。 残念だがこの通りに竈門を撒けるような道はない。 「………………別にそんなんじゃない」 「本当か?もし脅されてるなら俺は許せない」 竈門なら本気で先輩に殴り込みに行くだろう。 そうなってくると非常に面倒だ。 第一脅されている事実はない。 ここは否定しておく。 「本当に、違う」 相変わらず笑みを貼り付けたままの私の顔をじっと見ると竈門は言った。 「じゃあ何で?」 何でと言われても特に理由はない。 それを説明するのが面倒くさい。 理由がなく行動する人間だっている。 こいつにはそれがわからないのだろう。 これまでの経験から別にと答えても質問の堂々巡りになるだけだとわかっているので、私は取り繕う事を学習していた。 「…………寂しいから」 仮に寂しいとして、それをあの男で埋めようなどという気は毛の一本程もなかったがそれらしい事を答えてみた。 これで終わりにしてほしい。 竈門はしばらく私の顔を真剣に見ていたがやがて言った。 「もう先輩と会うのはやめてほしい」 「………………なぜ?」 やめてほしいと言われても私だけで決める事ではないのでどうしていいかわからない。 「寂しいから会ってるっていう理由なら俺と会ってほしい」 なんだそうか。 竈門も私を抱きたいのか。 少し心臓が冷えるみたいな変な感覚がした。 私には断る理由がないのだからそれならそうと早く言えばいいのに。 「………………いいよ」 「本当?」 「どこに行けばいい。 竈門の家?」 「え?」 「私の家でも別にいい」 竈門は最初その意味がわからなかったようだったが、やがて慌てて言った。 「そういう事じゃない!」 じゃあどういう事なんだろう。 意味がわからない。 「したくないの」 聞いてみると顔を赤くして答えに困ったようだった。 「……したくない、とかじゃなくて…………だから俺はそういうつもりで、あの先輩みたいなつもりで会いたいって言ったわけじゃない」 「………………じゃあ、なぜ?」 竈門は赤面したまましばらく考えていたが、 「栗花落には今ただ単に言葉で言っても分からなそうだから、これから俺が行動で伝えていく」 そう言って私の手をとった。 竈門の手はあったかくて優しくて気持ち良かったので私はびっくりした。 先輩に触れられた時と全然違う。 男の人に触られて気持ち良いなんて今まで思った事なかったけど、竈門は違うのかもしれない。 早く触られてみたい。

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#鬼滅の刃 #炭カナ カナヲのおねがい

鬼 滅 の 刃 ss 炭 カナ

金属の音、というのは何も知らない人間ならそう聞こえるということで、知っている人間からしたらそれは『刀がぶつかり合う音』だとすぐに気がつくだろう。 知っている人間の一人、富岡義勇は校舎内の階段を上って二階へと向かう。 音の発生源である二階の渡り廊下。 その真ん中で、三人の少年が戦っていた。 いや、既に勝敗は決していた。 「もう諦めろ、炭治郎。 俺達は、絶対に二人を助け出してみせる。 だから俺達を信じてくれよ、炭治郎」 アオイはまだ、炭治郎のことを『昔の記憶がないただの一般人』だと思っている。 炭治郎が鬼だというのは善逸達と元柱の数人しか知らない。 それに、アオイが知ればカナヲにも知られるかもしれない。 何故だかそれは、ダメな気がする。 そんな予感があったから、炭治郎を動かなくする必要があった。 炭治郎は、去っていく二人の背中を静かに見つめていた。 鬼ごろしでも、彼らになら、背中を預けてもいいかもしれない。 少なくとも、そんな気持ちが炭治郎に芽生えていた。 カレラニナラ、セナカヲアズケテモイイカモシレナイ。 この感情は、なんだ。 胸の奥から溢れ出す、この熱はなんだ。 『はぁ、がっかりさせないでよ』 「っ?」 声がした。 『自分の妹が捕まってるんだろ』 だけど、もう俺の体は動かない。 『あの時の様に、取り戻してみろ。 もう一度あの時の断ち切れない絆ってやつを見せてくれよ』 でも、その力が今の俺にはない。 『なら、僕を使え』 ま、君にできるのならだけどね。 そう言って目の前に現れた色白の少年は消えていった。 「…………っ、?」 最初に気づいたのは、伊之助だった。 何かが彼の右腕に擦り傷を作った。 新手の鬼の攻撃と勘違いした二人は既に警戒を解いていた背後に意識を向けていなかった。 起き上がった炭治郎は、強い意志の光を瞳に宿してそれを告げる。 反射的に判断した富岡は炭治郎へと接近する。 しかし、そこで気がつく。 (…………鼓?) いつのまにか炭治郎が脇に抱えていた鼓を打った瞬間に、富岡の視界がガラリと変わる。 目の前には、見知った少女がいた。 その技を、善逸達は知っている。 これが俺の力だ」 「…………まさか、君がここに来るなんて」 「…………」 「これは本当に血の濃い鬼にしか分からないんだけどね、この時代の鬼は今、空席の玉座を奪い合ってるんだ」 「空席の玉座……?」 「上弦だとか下弦だとか、そんなお行儀の良い順位付けなんて関係ない。 古参だろうが新入りだろうが誰でもあの席に座れる資格を持っているんだ」 そして、かつての十二鬼月、上弦の弐の席にいた『童磨』は同じく上弦の睦『妓夫太郎』に告げる。 「つまり、現代の鬼舞辻無惨だよ」 ここにいる二体の鬼は既にその資格を持っている。 「そして、もう一人」 ニヤリと笑うその鬼の目には、一人の少年がいた。 「っ、炭治郎……さん……?」 捕らえていた鬼殺の少女が、あり得ないという目を向けていた。 かつて追い詰められた宿敵の少年との意外な再会に妓夫太郎は静かに目を細めた。 右手に雷のような模様が入った刀を、左手にはのこぎりの様な刀を持った満身創痍の『ツノが生えた少年』がいた。 [newpage] [chapter:設定] 〜竈門炭治郎について〜 現パロ鬼化炭治郎ということで、当然、鬼ということはオプション(血鬼術)が必要ということで、『今まで殺してきた鬼の術を使える』というズルイ能力になります。 〜善逸+伊之助〜 アオイ、カナヲには炭治郎が鬼という事実は隠していた。 今回は炭治郎の血鬼術に敗北する。 〜妓夫太郎〜 元・上弦の睦。 妹も再び鬼として転生したが、今作では兄妹で何だかんだ言いつつも炭治郎側(主に竈門関係)に付くだろう。 〜童磨〜 再び鬼として転生した。 胡蝶姉妹がウォーミングアップを始めた。 富岡さんが密かに闘志を燃やしている(ぎゆしの要素).

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#1 蝶の誘惑(炭カナ)

鬼 滅 の 刃 ss 炭 カナ

漫画『鬼滅の刃』で、主人公・竈門炭治郎の同期として登場するミステリアスな少女、栗花落カナヲ。 恵まれた眼と才覚を持つが、その生まれは非常に貧しく、飢えと虐待のため目の前で兄弟が死んでいく過酷な幼少期を過ごした。 上の姉は胡蝶カナエ。 その死を看取った実の妹、胡蝶しのぶは蟲柱に就任。 薬学を研究し、カナエの仇を打つため剣術のみならず毒殺の腕を磨いたが、カナヲの目の前で童磨に取り込まれ、殺された。 なお、これは童磨の体に毒を巡らせるというしのぶの計画の一部。 駆けつけたカナヲは嘴平伊之助の協力も得て、見事童磨にトドメを刺した。 それは、残す者に想いを託したかどうかだ。 『鬼滅の刃』6巻 カナエは死の間際、しのぶに童磨討伐を託さなかった。 そして鬼殺という過酷な世界から離れ、一般人として安寧に身を置くよう願った。 対してしのぶは、カナヲを不可欠な戦力に組み込んだ上で、童磨討伐の作戦を練っていた。 これはカナヲがしのぶと違って、剣術の才覚に恵まれていたからだろうか。 いや、自分は命を賭しながら、一方でカナヲの視力を心配するしのぶのことだ。 きっとどれほどカナヲが強かろうが、彼女はカナヲの身を案じていたと思う。 では、カナヲにとっても童磨は仇であるから、同志として迎えたのだろうか。 これも少し違うと思う。 もしそうなら、童磨を倒す可能性を少しでも上げるため、1年かけた藤の花の毒の摂取をカナヲにもさせただろう。 何より、もっと期間に余裕を持って作戦を共有し、対童磨を意識した訓練を積むはずだ。 なぜ、しのぶはあのタイミングで、カナヲに作戦を告げたのか。 それは、カナヲが技術面だけでなく、精神面の成長を遂げたからではないだろうか。 冒頭に書いた通り、カナヲの幼少期は悲惨なものだった。 幼い心の無意識での自衛だったのか「ある日ぷつんと音がして 何もつらくなくなった」という経験を経て、全てがどうでもよくなり、それゆえ自分の頭で決められない人間となったという。 その状態で、姉達に出会い、鬼殺隊に入った。 なお単行本19巻に収録されている「大正コソコソ話」によると、鬼殺隊に入ったことは本人の意志だったが、それを周りに伝わるように示してはいなかったようだ。 自分で物事を決められないカナヲのために、生前のカナエは、1枚の銅貨を渡した。 どうすれば良いかわからないとき、銅貨を投げ、表裏どちらが出たかで決めればよい、という配慮だ。 これは、当時のカナヲには良かったのかもしれない。 だが、「銅貨を投げて決めればいい」という心の補助輪は、カナヲの精神の成長を止めていた。 そこへ現れたのが竈門炭治郎だ。 彼はカナヲの銅貨を投げ、「表が出たらカナヲは心のままに生きる」と宣言。 そして本当に表を出し、彼女に自分の心の声をよく聞くよう促した。 あくまでカナヲが大切にしていたルールの中で、優しく補助輪を外したからこそ、彼女は自分のペースで漕ぎ出すことができたのだろう。 彼女はこの出来事以来、銅貨を投げなくなり、それはカナヲが一人の人間として生まれ直すきっかけでもあった。 さて、そのようなきっかけを経て、カナヲはストーリーの随所で感情や意志を表すようになっていく。 特に大切な人に対してはそれが顕著になるのだろう。 しのぶとの会話の中で「もっと師範と稽古したいです」と自分の要望を伝えたり、その後、童磨戦に向けた決死の計画を聞くと(嫌だ 嫌だ……)と困惑したりする。 昔のカナヲのままだったら、自分から稽古したいなどと言わず、計画には何の感想も抱かず従っただろう。 カナヲが自分の意志や感情を持ち、それを周りにも出すようになっていることは、長い時間をともに過ごしたしのぶが最も強く感じていたはずだ。 だからこその「やはり良い頃合いだわ 私の姉カナエを殺した その鬼の殺し方について 話しておきましょう」というセリフだったのではないだろうか。

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