天気 の 子 ss。 #2 学校の間幕

#2 学校の間幕

天気 の 子 ss

ご閲覧の際はご注意ください。 総評すると、天野陽菜は特に目立ちもしないが今時にしてはちょっと珍しい女子高生だった。 いい子だよね。 お弁当美味しいし、ノート見せてくれるし。 携帯ないのとバイトばっかりであんまり遊んでくれないのが玉に瑕だけどさ。 まあ弟さんと二人暮しで両親いないの知ってるし、しょうがないんだけどねー。 あー、弟さん紹介してくれないかなー。 もうまさに美少年!って感じでさぁ。 面倒見がよくってほとんど初対面だったのに遅くまで手伝ってもらっちゃって……。 心ここにあらずって感じ? もー恋する乙女か!って感じ!それがまた男子共には受けがいいんだけど……ま、ご愁傷さまって感じじゃん?ありゃ好きな人いるよね。 明るいし、気さくだし。 デートに誘っても断られるし。 どうやってとっかかり作りゃいいんだよ。 今度周り巻き込んで合コンでもセッティングしてみっかな。 天野さんですか。 成績はそこそこですが、資格取得を頑張ってますね。 ご両親がいないから気にかけてはいますけど、本人は明るく振る舞ってますし強い子なのでしょうね。 ただ、時折上の空だったりするので心配になることはありますけど。 彼女こそこの世界の鍵を握っている人物!3年前に起きた局地的な晴れ女騒動!そこから続く記録的な長雨!その中心にはきっと彼女がいる!と……思ってるんですが、別に普通なんですよねぇ……これといって不思議なことも起こらないし。 髪も染めないし、化粧もほとんどしてないし、携帯も持ってないし、オトコ作らないし、進学する気もないし、細いっていうかガリの域だし、家庭環境ガチヤバだし、オトコ共にちょっと人気あるけど、地味すぎね? あー、今度またガッコサボって遊びに誘おうかな。 ネイルしてやろ。 それが高校三年に上がるまでの天野陽菜の印象だった。 東京の女子高生にしては携帯がないという珍しさはあったものの、彼女の友達は彼女に両親が居ないことも、それゆえ生活が苦しいことも知っており、無理に踏み込んでこようとはしなかった。 そこには哀れみのような感情あったかもしれないが、同情で留まっていたのは彼女の人徳と言えただろう。 とにかく彼女は目立つことを避けてきたし、目立つような真似もしなかった。 過去に花火大会で晴れ女の仕事をしたときの動画を見せられることはあったものの、彼女は笑って否定した。 派閥のリーダー格でもなく有名人でもなければ、卒業と共にいつか忘れ去られ、そういう子もいたねと少し思い出に現れるぐらいの影の薄い子。 彼女に淡い想いを抱いていた少年だけがいつまでも覚えているような、そういう立ち位置の子だ。 同級生たちに何の影響も与えることもなく、なんの色も与えない。 だがこの高校三年から卒業までの一年、その印象は変化していくことになる。 それまるで雨雲の空に差した一筋の光であるかのように、彼女の周囲の人にとってはそれは眩しいものだった。 クラス替えもなく二年からそのままスライドした陽菜のクラスは、おおよそいつもの面子が教室で朝の気だるさを満喫していた。 男女で昨日のテレビについて話してるもの。 スマホでなにかを読んでいるもの。 漫画を読んでるもの。 突っ伏して寝ているもの。 メイクの手直しをしているもの。 席は新学期ということもあり50音順から配置されてた。 廊下側の前から二番目の席に鞄をひっかけ、陽菜は三年生になって新しくなった授業のカリキュラムに目を通す。 一限目はなんだっただろうか。 「陽菜おはよー」 声をかけられ、顔をあげる。 前の席に座るのは一年からの友達だ。 目立ちすぎない茶髪にゆるふわなセミロングは彼女の穏やかながらも明るいイメージを表しているようだった。 「陽菜、新学年ということで気合いをいれてきちゃった?」 「え? どゆこと?」 ニヤリと彼女の口の端が広がる。 擬音をいれるとするならば「にやー」だ。 「その指輪。 陽菜がオシャレなんてめずらしーじゃん」 言われて陽菜は慌てて左手薬指を手で隠した。 手の中にあるのは小さな羽をあしらった銀色の指輪だ。 案外めざといとつい陽菜は思ってしまう。 「しかもこれ見よがしに左手薬指なんてさ。 こういう隙すらあまりない子だから珍しいと言うのもあった。 きっと陽菜は困ったように笑いながら「弟の悪戯」とでも言うのだろう。 たいした理由ではなく、記憶に残らないような答えが返って来るものだと思っていた。 顔を耳まで真っ赤にして俯き、無言で頷く陽菜を見て自分の目を疑った。 「えっ……うっそマジ?」 ニヤケ顔だった彼女の顔がみるみる内に真顔になる。 内緒話でもするかのように彼女は陽菜に顔を近づけてくると、 「え? 相手誰? A組の白井? それとも石川? そいや拓也くんにも告られてなかったっけ? 全部振ったんでしょ? ってゆーか我らがオヒナサマに彼氏とか一大大事件なんですけど鉄壁の聖女とか言われたあんた落としたの誰よ」 「え……なにそのあだ名。 ってかなんでそこまで告白されてるの知ってるのよっ」 「えー有名じゃーん! 一年の頃から玉砕した男共全員知ってる」 「そ、そうなんだ……」 知らなかったそんなのと陽菜は軽いショックを受ける。 プライバシーとはなんなのか。 「で」 ずずいっともうひと段階彼女が詰め寄ってくる。 「誰なの相手」 陽菜は唸った。 言うべきか言わざるべきか一瞬迷いを得る。 ただ直ぐに別に迷うことでもないと思い至る。 そもそも彼女は知るまでずっと聞き続けるだろう。 それは面倒くさい。 「ひとつ上? の、大学生」 「なんで「?」大学生でしょ。 年上じゃーん」 何故か自分のことのように嬉しそうに彼女ははしゃぐ。 「ふふっ、まあ、そのうちね」 「おー、マジっすか。 机をくっつけてお手製弁当を広げる陽菜は三人の女子生徒に囲まれていた。 女の子の恋バナに関する熱意を陽菜は甘く考えていた。 いや確かに人の恋バナとか興味ありますけど。 それにしたってこんな囲んで聞くようなこととも思う。 「だって気になるじゃーん。 あ、卵焼きもらっていい?」 ゆるふわなロングヘアの浅井が返答も待たずに陽菜の弁当箱から卵焼きを持っていく。 代わりに陽菜は彼女の弁当箱に収まっていたタコさんウィンナーを自分の弁当箱に入れる。 「ああ、タコさん……」と嘆く浅井を陽菜は無視する。 おかず交換は等価交換が共通認識だったはずだ。 「陽菜っちが指輪つけてきたら誰だって興味あるっしょ」 ストレートの黒いロングヘアに水色を基調とした海を彷彿とさせるネイルが特徴の佐々木さんがサラダをつつきながらニヤリと笑う。 「しかも左手薬指とか、ファッションで指輪をつけることはあっても普通は避けます」 最後にドカベンを頬張ってたおかっぱに赤メガネの星野さんが陽菜の薬指に注視しながら付け加える。 「そ、そうかな?」 「「「そうだよ」」」 三人の声がハモる。 「大学生って聞いたけどさーそもそもどんな人なん? 陽菜っちの心を射止めるなんて」 「んー……なんだか放っておけない捨てられた子猫……みたいな?」 「……はぁ? なにそれ?」 「あー、や、それが第一印象で。 そだねぇ……」 少し考えるように陽菜は唇に指を当てる。 「それで?」 「昔色々私のために助けてくれたりした人でね。 こんな私のために色々無茶しちゃって……放っておけないんだけど、私を引っ張ってくれて……頼りなさそうなんだけど、いつも一生懸命で、それが少し頼もしくって……ちょっとカッコよくて。 あまりの惚気オーラにメガネにヒビが入りそうでした」 「ベタ惚れじゃーん!」 「ええっ!?」 止められて、彼女たちの呆れた目を見て、陽菜は自分が言ったことを反芻する。 顔が、一気に火がついたように真っ赤になった。 「ちな、馴れ初めは?」 「惚気オーラに屈しませんね浅井さんは」 お腹いっぱいとでもいうかのように星野さんはまだ残っている弁当に蓋をかぶせた。 今日は少し強めの雨が空から降り注いでいる。 「東京に雨がやまなくなったあの年に、私と帆高は出会ったの」 「ふむ……」 その横顔になにかを思ったのか星野さんは眼鏡を中指で直し、 「じゃあ三年前から付き合ってたってことです?」 その問いに陽菜は首を振って答える。 それまで離ればなれだったし、彼、島育ちだから」 「ん……? ちょっと待って。 三年前に知り合って、最近付き合いだして……陽菜携帯持ってないよね。 「ピュアですか!?」 「第一、陽菜の方から連絡とっちゃえばよかったじゃん」 「それは何回も考えたんだけど……色々あって迷惑かけちゃうもとか、どんなこと言えば良いんだろうとか、そもそも細かい住所知らなかったりだとか……いや、あの、その……」 どんどん白くなる回りの目に陽菜の言葉は尻すぼみになっていく。 陽菜自身この三年の間いくらでもアクションできたことは自覚していたけれど、どうしても一歩が踏み出せなかった。 周りが呆れていくのを肌で感じ、軽く冷や汗が流れる。 「ま、その男も悪いよね。 うちの陽菜をそんなに待たせるなんて」 浅井さんのフォローに陽菜は「そうだね」と苦笑する。 「まー、男子共がこぞって玉砕するわけだ。 陽菜っちの心は入学前から彼氏さんのものだってことじゃんね」 「でも、それならばやっぱり天野さんは携帯を持ってた方がいいと思います」 「あー、そのことなんだけど……ついに私も携帯デビューするかも」 帆高のご厚意でということは黙っておこう。 「おお、どういう風のふき回し?」 「そりゃ彼氏いるにに携帯ないとか流石にないっしょー」 我が事のように彼女たちの顔がほころぶ。 「うん。 携帯代なんて相手に貢がせればいいのです」 「な、なんでそれを知ってるのよ!?」 「え? マジ?」 三度向けられる白い視線に陽菜は逃れるように視線をそらした。 「や、だって帆高の方が携帯無いと不便だからって、弟もそれに乗っちゃってトントン拍子に話ついちゃって、プランは一番安物にしてもらうつもりだし、そんなに負担かけられないし、それに私だって、その、連絡取り合いたい……し」 いたたまれなさそうにしながら言い訳のように陽菜は言葉を紡ぐ。 キョトンととした目を向ける陽菜に、浅井さんは「なんでもない」と手を振って応える。 「陽菜のそーゆとこ、なんか珍しくってさ」 「そういうところ?」 小首を傾げる陽菜に浅井さんはいたずらっぽく笑ってみせる。 「ま、とくにかくさ。 携帯持ったらソッコ教えてよ。 常日頃から携帯持ちなよ、女子高生っぽいことしなよと言ってきた彼女たちだ。 陽菜はそれにバイトと家庭を言い訳に避けていたことに申し訳なさを覚えていた。 今からでも彼女たちの期待に応えることはできるだろうか。 何も持たない私に対して自分のことのように喜んでくれる彼女たちに対し、陽菜はくすぐったいような気持ちになる。 今度遊びに誘われたときはなるべく予定を空けよう。 「それで天野隊員。 その「帆高」さんとはどのような方で?」 「浅っち……惚気聞くの?」 「の、惚気けたりしないから!」 結局、昼休みが終わるまで帆高の事を根掘り葉掘り聞かれてしどろもどろになりながらも陽菜は相手し続けた。 * * * 気だるい授業の中、教科書の影に隠しながら陽菜は左手の薬指に触れる。 そこにある確かなものを指先で転がしながら、気をゆるめばニヤつきそうな顔を必死で抑える。 こんなことしてたらまた乙女脳かと言われるかもしれないけど。 やたらニコニコしてるし、なにかいいことでもあったのかな? 女の子の笑顔っていいですよね……最近彼女のことばかり考えちゃって……そういえば指輪をしてるみたいだけどその頃からかな。 なんか雰囲気も明るくなった気がして。 初彼とみた。 しかもこの学校じゃないっぽいね。 ま、野郎どもは残念だったね。

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天気の子で瀧くんと三葉が登場!その後に結婚していたことが判明!?

天気 の 子 ss

新海誠監督の日本映画史に残る超大ヒット作が6月30日(日)今夜テレビ朝日系でオンエア。 番組内では新海監督最新作の冒頭シーンも公開されるほか、Twitter、AbemaTVでは実況特番企画も実施される。 ゲーム会社でムービー制作などを手掛けながらデジタルアニメーションを制作、ほとんどの工程を個人でこなした『ほしのこえ』が高い評価を受け、新世代のアニメクリエイターとして注目された新海監督。 2016年8月に公開された本作は国内興行収入250億円を突破し、2016年の興行収入1位、さらに日本映画史上歴代2位という大記録を打ち立て、日本のみならず、台湾、香港、タイ、中国、韓国などアジア圏でも公開され、ハリウッドでは実写映画化も決定するなど歴史的作品となった。 田舎暮らしの女子高校生・三葉(上白石萌音)と東京に住む男子高校生・瀧(神木隆之介)の心が時空を超えて入れ替わる。 夢だと思っていた田舎と都会での暮らしが現実の出来事だと知り、最初は拒絶していた2人だがいつしかお互いの存在を意識し始める。 だが2人の入れ替わりにはある秘密があった。 三葉と瀧は出会うことができるのか…という物語。 『ちはやふる』『L・DK ひとつ屋根の下、「スキ」がふたつ。 』などの上白石萌音と、俳優だけでなく『千と千尋の神隠し』など数々の人気作で声優としても活躍する神木隆之介がW主演。 「RADWIMPS」の主題歌「前前前世」も感動を盛り上げてくれる。 今回のオンエアでは新海監督の3年ぶりとなる最新作『天気の子』の冒頭シーンも公開。 同作は離島から家出し東京にやってきた森嶋帆高が、怪しげなオカルト雑誌のライターとして働くなかで、都会の片隅で弟とふたり、明るくたくましく暮らす少女・天野陽菜と出会う。 舞台「弱虫ペダル」で注目された期待の新星・醍醐虎汰朗が帆高を、「3年A組-今から皆さんは、人質です-」などの森七菜が陽菜を演じるほか、小栗旬、本田翼、梶裕貴、倍賞千恵子、平泉成らが声優として出演する。 『天気の子』は7月19日(金)より全国東宝系にて公開。 『君の名は。 』は6月30日(日)21時~テレビ朝日系でオンエア。 Twitter、AbemaTVでは特別番組「君の名は。 ノチ天気の子実況特番」を実施。 こちらは20時45分~Twitter&AbemaTV(天気の子チャンネル)にて配信。 《笠緒》.

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#2 学校の間幕

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ご閲覧の際はご注意ください。 総評すると、天野陽菜は特に目立ちもしないが今時にしてはちょっと珍しい女子高生だった。 いい子だよね。 お弁当美味しいし、ノート見せてくれるし。 携帯ないのとバイトばっかりであんまり遊んでくれないのが玉に瑕だけどさ。 まあ弟さんと二人暮しで両親いないの知ってるし、しょうがないんだけどねー。 あー、弟さん紹介してくれないかなー。 もうまさに美少年!って感じでさぁ。 面倒見がよくってほとんど初対面だったのに遅くまで手伝ってもらっちゃって……。 心ここにあらずって感じ? もー恋する乙女か!って感じ!それがまた男子共には受けがいいんだけど……ま、ご愁傷さまって感じじゃん?ありゃ好きな人いるよね。 明るいし、気さくだし。 デートに誘っても断られるし。 どうやってとっかかり作りゃいいんだよ。 今度周り巻き込んで合コンでもセッティングしてみっかな。 天野さんですか。 成績はそこそこですが、資格取得を頑張ってますね。 ご両親がいないから気にかけてはいますけど、本人は明るく振る舞ってますし強い子なのでしょうね。 ただ、時折上の空だったりするので心配になることはありますけど。 彼女こそこの世界の鍵を握っている人物!3年前に起きた局地的な晴れ女騒動!そこから続く記録的な長雨!その中心にはきっと彼女がいる!と……思ってるんですが、別に普通なんですよねぇ……これといって不思議なことも起こらないし。 髪も染めないし、化粧もほとんどしてないし、携帯も持ってないし、オトコ作らないし、進学する気もないし、細いっていうかガリの域だし、家庭環境ガチヤバだし、オトコ共にちょっと人気あるけど、地味すぎね? あー、今度またガッコサボって遊びに誘おうかな。 ネイルしてやろ。 それが高校三年に上がるまでの天野陽菜の印象だった。 東京の女子高生にしては携帯がないという珍しさはあったものの、彼女の友達は彼女に両親が居ないことも、それゆえ生活が苦しいことも知っており、無理に踏み込んでこようとはしなかった。 そこには哀れみのような感情あったかもしれないが、同情で留まっていたのは彼女の人徳と言えただろう。 とにかく彼女は目立つことを避けてきたし、目立つような真似もしなかった。 過去に花火大会で晴れ女の仕事をしたときの動画を見せられることはあったものの、彼女は笑って否定した。 派閥のリーダー格でもなく有名人でもなければ、卒業と共にいつか忘れ去られ、そういう子もいたねと少し思い出に現れるぐらいの影の薄い子。 彼女に淡い想いを抱いていた少年だけがいつまでも覚えているような、そういう立ち位置の子だ。 同級生たちに何の影響も与えることもなく、なんの色も与えない。 だがこの高校三年から卒業までの一年、その印象は変化していくことになる。 それまるで雨雲の空に差した一筋の光であるかのように、彼女の周囲の人にとってはそれは眩しいものだった。 クラス替えもなく二年からそのままスライドした陽菜のクラスは、おおよそいつもの面子が教室で朝の気だるさを満喫していた。 男女で昨日のテレビについて話してるもの。 スマホでなにかを読んでいるもの。 漫画を読んでるもの。 突っ伏して寝ているもの。 メイクの手直しをしているもの。 席は新学期ということもあり50音順から配置されてた。 廊下側の前から二番目の席に鞄をひっかけ、陽菜は三年生になって新しくなった授業のカリキュラムに目を通す。 一限目はなんだっただろうか。 「陽菜おはよー」 声をかけられ、顔をあげる。 前の席に座るのは一年からの友達だ。 目立ちすぎない茶髪にゆるふわなセミロングは彼女の穏やかながらも明るいイメージを表しているようだった。 「陽菜、新学年ということで気合いをいれてきちゃった?」 「え? どゆこと?」 ニヤリと彼女の口の端が広がる。 擬音をいれるとするならば「にやー」だ。 「その指輪。 陽菜がオシャレなんてめずらしーじゃん」 言われて陽菜は慌てて左手薬指を手で隠した。 手の中にあるのは小さな羽をあしらった銀色の指輪だ。 案外めざといとつい陽菜は思ってしまう。 「しかもこれ見よがしに左手薬指なんてさ。 こういう隙すらあまりない子だから珍しいと言うのもあった。 きっと陽菜は困ったように笑いながら「弟の悪戯」とでも言うのだろう。 たいした理由ではなく、記憶に残らないような答えが返って来るものだと思っていた。 顔を耳まで真っ赤にして俯き、無言で頷く陽菜を見て自分の目を疑った。 「えっ……うっそマジ?」 ニヤケ顔だった彼女の顔がみるみる内に真顔になる。 内緒話でもするかのように彼女は陽菜に顔を近づけてくると、 「え? 相手誰? A組の白井? それとも石川? そいや拓也くんにも告られてなかったっけ? 全部振ったんでしょ? ってゆーか我らがオヒナサマに彼氏とか一大大事件なんですけど鉄壁の聖女とか言われたあんた落としたの誰よ」 「え……なにそのあだ名。 ってかなんでそこまで告白されてるの知ってるのよっ」 「えー有名じゃーん! 一年の頃から玉砕した男共全員知ってる」 「そ、そうなんだ……」 知らなかったそんなのと陽菜は軽いショックを受ける。 プライバシーとはなんなのか。 「で」 ずずいっともうひと段階彼女が詰め寄ってくる。 「誰なの相手」 陽菜は唸った。 言うべきか言わざるべきか一瞬迷いを得る。 ただ直ぐに別に迷うことでもないと思い至る。 そもそも彼女は知るまでずっと聞き続けるだろう。 それは面倒くさい。 「ひとつ上? の、大学生」 「なんで「?」大学生でしょ。 年上じゃーん」 何故か自分のことのように嬉しそうに彼女ははしゃぐ。 「ふふっ、まあ、そのうちね」 「おー、マジっすか。 机をくっつけてお手製弁当を広げる陽菜は三人の女子生徒に囲まれていた。 女の子の恋バナに関する熱意を陽菜は甘く考えていた。 いや確かに人の恋バナとか興味ありますけど。 それにしたってこんな囲んで聞くようなこととも思う。 「だって気になるじゃーん。 あ、卵焼きもらっていい?」 ゆるふわなロングヘアの浅井が返答も待たずに陽菜の弁当箱から卵焼きを持っていく。 代わりに陽菜は彼女の弁当箱に収まっていたタコさんウィンナーを自分の弁当箱に入れる。 「ああ、タコさん……」と嘆く浅井を陽菜は無視する。 おかず交換は等価交換が共通認識だったはずだ。 「陽菜っちが指輪つけてきたら誰だって興味あるっしょ」 ストレートの黒いロングヘアに水色を基調とした海を彷彿とさせるネイルが特徴の佐々木さんがサラダをつつきながらニヤリと笑う。 「しかも左手薬指とか、ファッションで指輪をつけることはあっても普通は避けます」 最後にドカベンを頬張ってたおかっぱに赤メガネの星野さんが陽菜の薬指に注視しながら付け加える。 「そ、そうかな?」 「「「そうだよ」」」 三人の声がハモる。 「大学生って聞いたけどさーそもそもどんな人なん? 陽菜っちの心を射止めるなんて」 「んー……なんだか放っておけない捨てられた子猫……みたいな?」 「……はぁ? なにそれ?」 「あー、や、それが第一印象で。 そだねぇ……」 少し考えるように陽菜は唇に指を当てる。 「それで?」 「昔色々私のために助けてくれたりした人でね。 こんな私のために色々無茶しちゃって……放っておけないんだけど、私を引っ張ってくれて……頼りなさそうなんだけど、いつも一生懸命で、それが少し頼もしくって……ちょっとカッコよくて。 あまりの惚気オーラにメガネにヒビが入りそうでした」 「ベタ惚れじゃーん!」 「ええっ!?」 止められて、彼女たちの呆れた目を見て、陽菜は自分が言ったことを反芻する。 顔が、一気に火がついたように真っ赤になった。 「ちな、馴れ初めは?」 「惚気オーラに屈しませんね浅井さんは」 お腹いっぱいとでもいうかのように星野さんはまだ残っている弁当に蓋をかぶせた。 今日は少し強めの雨が空から降り注いでいる。 「東京に雨がやまなくなったあの年に、私と帆高は出会ったの」 「ふむ……」 その横顔になにかを思ったのか星野さんは眼鏡を中指で直し、 「じゃあ三年前から付き合ってたってことです?」 その問いに陽菜は首を振って答える。 それまで離ればなれだったし、彼、島育ちだから」 「ん……? ちょっと待って。 三年前に知り合って、最近付き合いだして……陽菜携帯持ってないよね。 「ピュアですか!?」 「第一、陽菜の方から連絡とっちゃえばよかったじゃん」 「それは何回も考えたんだけど……色々あって迷惑かけちゃうもとか、どんなこと言えば良いんだろうとか、そもそも細かい住所知らなかったりだとか……いや、あの、その……」 どんどん白くなる回りの目に陽菜の言葉は尻すぼみになっていく。 陽菜自身この三年の間いくらでもアクションできたことは自覚していたけれど、どうしても一歩が踏み出せなかった。 周りが呆れていくのを肌で感じ、軽く冷や汗が流れる。 「ま、その男も悪いよね。 うちの陽菜をそんなに待たせるなんて」 浅井さんのフォローに陽菜は「そうだね」と苦笑する。 「まー、男子共がこぞって玉砕するわけだ。 陽菜っちの心は入学前から彼氏さんのものだってことじゃんね」 「でも、それならばやっぱり天野さんは携帯を持ってた方がいいと思います」 「あー、そのことなんだけど……ついに私も携帯デビューするかも」 帆高のご厚意でということは黙っておこう。 「おお、どういう風のふき回し?」 「そりゃ彼氏いるにに携帯ないとか流石にないっしょー」 我が事のように彼女たちの顔がほころぶ。 「うん。 携帯代なんて相手に貢がせればいいのです」 「な、なんでそれを知ってるのよ!?」 「え? マジ?」 三度向けられる白い視線に陽菜は逃れるように視線をそらした。 「や、だって帆高の方が携帯無いと不便だからって、弟もそれに乗っちゃってトントン拍子に話ついちゃって、プランは一番安物にしてもらうつもりだし、そんなに負担かけられないし、それに私だって、その、連絡取り合いたい……し」 いたたまれなさそうにしながら言い訳のように陽菜は言葉を紡ぐ。 キョトンととした目を向ける陽菜に、浅井さんは「なんでもない」と手を振って応える。 「陽菜のそーゆとこ、なんか珍しくってさ」 「そういうところ?」 小首を傾げる陽菜に浅井さんはいたずらっぽく笑ってみせる。 「ま、とくにかくさ。 携帯持ったらソッコ教えてよ。 常日頃から携帯持ちなよ、女子高生っぽいことしなよと言ってきた彼女たちだ。 陽菜はそれにバイトと家庭を言い訳に避けていたことに申し訳なさを覚えていた。 今からでも彼女たちの期待に応えることはできるだろうか。 何も持たない私に対して自分のことのように喜んでくれる彼女たちに対し、陽菜はくすぐったいような気持ちになる。 今度遊びに誘われたときはなるべく予定を空けよう。 「それで天野隊員。 その「帆高」さんとはどのような方で?」 「浅っち……惚気聞くの?」 「の、惚気けたりしないから!」 結局、昼休みが終わるまで帆高の事を根掘り葉掘り聞かれてしどろもどろになりながらも陽菜は相手し続けた。 * * * 気だるい授業の中、教科書の影に隠しながら陽菜は左手の薬指に触れる。 そこにある確かなものを指先で転がしながら、気をゆるめばニヤつきそうな顔を必死で抑える。 こんなことしてたらまた乙女脳かと言われるかもしれないけど。 やたらニコニコしてるし、なにかいいことでもあったのかな? 女の子の笑顔っていいですよね……最近彼女のことばかり考えちゃって……そういえば指輪をしてるみたいだけどその頃からかな。 なんか雰囲気も明るくなった気がして。 初彼とみた。 しかもこの学校じゃないっぽいね。 ま、野郎どもは残念だったね。

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